「三次救急を担う大事な病院」「医療センターに何かあれば市民の命を守れない」
松戸徹市長はあおりにあおって医療センター(以下病院)の海老川上流地区への移転を進めてきた。
災害拠点病院だからヘリポートを造らなければならない。災害拠点病院だから将来の建て替えに備えた土地も確保しなければならない(実際はできなかったけれど)。災害拠点病院だから低湿地に可能な限り盛り土をして洪水から守らねばならない。災害拠点病院だから地盤改良をしっかりやる。災害拠点病院だから、県から助成金を引っぱれる…。
こうした市の発言によって、市民はすっかり暗示にかかってしまった。災害拠点病院だから、お金がかかっても良いものをつくってもらいたいと。案外、市の職員たちも「新病院は災害拠点病院である」と思い込んでいるのかもしれない。
しかし! 大金をかけて造っても、新病院は災害拠点病院に指定されない恐れがあることがわかった。病院が移転したら、改めて災害拠点病院の指定要件を満たしているか、県によって審査されるからだ。今災害拠点病院だから次も災害拠点病院、という保証はどこにもない。
強化が進む災害拠点病院の指定要件
国は今、水害時でも十分に医療機能を保てるように、災害拠点病院の指定要件を強化している。理由は、厚生労働省研究班による調査で「災害拠点病院の約3割は浸水想定区域にある」ことがわかったからだ。
産経新聞
だから厚労省は今年4月1日施行で法改正し、すでに浸水想定区域にある病院は止水板をつけるなどの対策を義務付けた。
ではこれから造る病院は? 実は厚労省の指定要件には移転、つまり立地についての規定はない。しかし令和5年8月17日の参議院災害対策特別委員会で、国は船橋の医療センター移転について、「別の場所に移転する場合は地理的条件等が変更されることから、改めて指定要件に合致しているか確認が行われると承知している」と答弁した。(※1)
つまり厚労省の指定要件に明記されてはいないが、国は災害拠点病院の指定要件には立地がふくまれると考えているのである。国土交通省は「災害拠点建築物」の立地について「災害対策の拠点として、その機能を継続して発揮できる立地とする」「できるだけ周辺のライフラインや災害拠点建築物へのアクセスに障害が発生しない立地とする」などとしており(※2)、厚労省もこの文書の内容は承知している。
災害拠点病院にふさわしくない、これだけの理由
では新病院の移転先は災害拠点病院にふさわしいのだろうか。私たちの答えはノーだ。
1,低湿地(遊水地)を埋め立てる(周辺より高くなる)。だから豪雨の時はそれまで低湿地に流れ込んでいた水が周辺に溢れ、浸水がひどくなる(※3)。市民を被災させる災害拠点病院など、ありえない。
また新病院の救急車の侵入口は排水能力が低い念田川沿いに設けられていること、病院南部の、標高が低い所を走る幹線道路(芝山街道)は、豪雨の時は川になることが市が行った洪水シミュレーションでわかっている。さらに市が頼りにする病院東の幹線道路(船取線)はこの芝山街道に交わることから、豪雨時には動けなくなった車で渋滞するだろう。病院北も市のシミュレーションで浸水がひどくなることが示されている。つまり、豪雨の時は病院にアクセスできないのだ。
2,超軟弱地盤である。新病院の設計会社が市に「想定以上の軟弱地盤のため、大地震の時はほぼ全面液状化する」と報告しているほど、危険でグズグズな土地である。
年初の能登半島地震では病院へのアクセス道路が変形し、陥没もいたるところで起きて病院が孤立した。水道管や下水管といったインフラも被災して、医療機能を発揮できなかったという(輪島市役所に取材)。
病院用地をふくむ事業用地全体が超軟弱地盤で、液状化対策もごく一部しか行われない今回の土地開発では、能登同様に大きな被害が出ると予想される。
千葉県医師連盟船橋支部も同様の懸念を抱き、去る3月26日、「病院までのアクセスをどのように確保するのか市から十分な説明がなく、救急医療体制に影響がないか大変憂慮している」という文書を市長と市議会に出している。
県の責任において医療センター建て替えを安全なものに
だから新病院は災害時に災害拠点病院として機能しない可能性が高い。巨額な費用をかけても災害拠点病院に指定されなければシャレにならない。
そのため、私たち市民連絡会と市民有志は、4月9日、千葉県の医療整備課を訪れ、知事あての要望書を手渡し、面談をふくめて以下のように要望してきた。
速やかに災害拠点病院の指定要件を満たしているか審査してほしい
県の審査は普通、病院ができてから行うと聞いたが、病院が建つことによって周辺地域の浸水リスクが高まり、大地震が来れば被災してしまうのだから、被災が予見されている以上、速やかに審査をしてほしい。そうでなければ市民の命は守れない。
また建ってから「やっぱりだめでした」では、災害拠点病院仕様にするために投入した建設費888億円(支払利息込み)が無駄になる。
県は国の方針を知っているのだから、国と相談し、通常の手続きより一歩も二歩も踏み込んだ対応をしてほしい。また審査の結果、もし指定要件を満たしていなければ、満たすよう指導し、もし応じなければ災害拠点病院に指定しないでほしい。
面談の席で県の医療整備課の職員たちは、苦渋の表情を見せた。「(事業に)問題があることはなんとなくわかりましたが…」。
さて国と連携して船橋市民と新医療センターを被災から救うのか、それとも通常どおり、病院ができてから審査をするのか。また工事が始まる前に審査したとしても、厚労省の指定要件に立地条件に関する記載がないことを挙げて、危険とわかっていても指定するのか。
要望書の回答期限は4月23日である。
※1嘉田由紀子参議院議員が「船橋市で災害拠点病院が湿地帯に移転する計画が進んでいる。国として船橋市を指導しないのか」と質問したことに対する答弁。
※2 国土交通省「国土技術政策総合研究所」資料第1004号
※3 令和4年に市が行った浸水シミュレーションで、高根町、夏見、米が崎、飯山満町など、この事業によって浸水深が増えるエリアがあることが明らかになった。